信頼の機械
1台のデスクトップPCから発電所まで、そしてコードに書き込まれた半減期。理想だけでは足りず、仕組みは実際に動かなければなりません。この展示室では、その機械を分解してみせます。マイナーは純粋な計算力で記帳する権利を競い合い、世界中の数千のノードが同じルールをそれぞれ独立に検証し、記録は古くなるほど書き換えにくくなっていきます。中心がまったくなくても、見知らぬ者どうしが、誰も反故にできないひとつの台帳を共有できるのです。
各世代の実機(CPU→GPU→FPGA→ASIC)・ネットワーク全体のハッシュレートと難易度の推移・実際に起きた3つのコンセンサス事例の一次報告とオンチェーン記録。
この台帳が書き換えにくいのは、ネットワーク全体がハッシュパワーの競争とコンセンサスのルールによって維持しているからです。特定の誰かが管理しているわけではなく、書き換えのコストはネットワーク全体のハッシュパワーとともに上がります。この議論には既知の限界があります。この展示室の51%攻撃の展示にある「いまも議論が続く点」をご覧ください。
機械はどう動くか
5つの部品、どれひとつ欠かせない信頼の機械・全体像
木を見る前に森を見ましょう。このシステムを、かみ合う歯車として思い描いてください。5つの部品はどれも欠かせず、組み合わさることで「トラストレス」が成り立ちます。全体をつかんでから、下の展示でひとつずつ掘り下げていきます。

公開台帳
誰もが確かめられ、誰もが写しを持つ台帳。
暗号によるつながり
ブロックは鎖のようにつながり、ひとつ変えれば後続はすべて崩れる。
プルーフ・オブ・ワーク
帳簿をつけるには、まず現実のハッシュパワーと電力を費やす。
最長チェーンのコンセンサス
ネットワークは、最も多くの仕事量が積み上がったチェーンを正とみなす。
インセンティブ設計
誠実な記帳には報酬があり、不正の代償は利益をはるかに上回る。
人力ハッシュに挑戦
ハッシュは、どんなデータも固定長の「指紋」に要約する仕組みで、元に戻すことはできません。マイニングとは、数値を変えてはハッシュを計算し直し、結果が十分に小さくなるまで繰り返すことです。近道はなく、ひたすら試すしかありません。夢中でクリックして、体感してみてください。
プルーフ・オブ・ワークと難易度調整
ハッシュパワーは100兆倍以上に増えましたが、ブロックはいまも約10分にひとつのペースで生まれています。ルールがみずから補正するからです。2,016ブロックごと(約2週間)に、ネットワークは前の期間に実際にかかった時間に応じて難易度を自動で調整します。速すぎれば難しく、遅すぎればやさしくなります。委員会が開かれることも、誰かが命令を出すこともありません。コードに書き込まれた自己調整の仕組みです。
半減期の大時計
次のビットコイン半減期まで、あと
ブロック報酬とは、マイナーがブロックをひとつ書き込むごとに得る新しいコインで、新規ビットコインの唯一の供給源です。この報酬は210,000ブロックごとに半分になります。50 → 25 → 12.5 → 6.25 → 3.125 BTC。2,100万という上限は、どの機関の約束にも頼っていません。半減のルールから算術的に導かれる帰結です。ここでは希少性そのものを、コードが執行しているのです。
誰も信頼せずにトランザクションが承認されるまで
実際のトランザクションを1つ、最初から最後まで追いかけてみましょう。各ステップで問うのはひとつだけです。ここでは誰を信頼しなければならなかったのか、そして何がその代わりになったのか。

作成
秘密鍵で署名し、「確かに本人である」ことを証明します。
ブロードキャスト
トランザクションがノードに広がり、メモリプールに入ります。
マイニング
マイナーが競い合い、勝者がそれをブロックに取り込みます。
承認
ネットワーク全体で同期され、ブロックの奥深くに埋まるほど取り消しが難しくなります。
| 通常なら信頼する相手 | それに代わるもの | |
|---|---|---|
| 銀行が残高を確認してくれると信頼する | → | ネットワーク全体で共有する公開台帳+暗号署名 |
| 誰かが誠実に帳簿をつけてくれると信頼する | → | PoWによるハッシュパワー競争+最長チェーンのルール |
| 誰も不正をしないと信頼する | → | インセンティブ設計:不正のコスト > 報酬 |
この台帳の書き換えが極めて難しい理由
二重支払い問題から考える二重支払い問題への答え
デジタル情報はいくらでも複製できます。では、なぜデジタルのコインは複製して二度使えないのでしょうか。従来は、銀行のような帳簿係が残高を照合していました。帳簿係がいなかったらどうなるのか。これが二重支払い問題です。
サトシ・ナカモトの答えは「もっと信頼できる人を探す」ことではなく、「時間の順序そのものを高価にする」ことでした。すべてのトランザクションは公開でブロードキャストされ、順番にブロックへ詰め込まれます。そしてブロックを書くには、現実の計算コストがかかります。同じコインを二度使うには、すでに書かれた順序をひっくり返さなければなりません。つまり、それ以降の作業をすべてやり直し、しかもその間に地球上のほかのあらゆるマシンを追い抜く必要があるのです。二重支払いは禁止されたわけではなく、経済的に割に合わないものにされただけなのです。
改ざん耐性
各ブロックのヘッダーには、ひとつ前のブロックのハッシュが書き込まれています。1バイトでも変えればそのハッシュが変わり、次のブロックが持つ参照が無効になります。この破綻は連鎖的にチェーンの先端まで及びます。そのため、ブロックNを書き換えるには、N以降のすべてのブロックの作業をやり直し、さらに先へ進み続けるネットワークに追いつかなければなりません。変更が禁止されているのではなく、変更するコストを誰も払えないのです。
ハッシュポインター
各ヘッダーには直前のブロックのハッシュが含まれているため、改ざんはすぐに露見します。
累積する作業量
ひとつのブロックを書き換えるには、それ以降のプルーフ・オブ・ワークをすべてやり直さなければなりません。作業量はブロックが積み重なるごとに増えていきます。
古いほど固い
ブロックが深く埋もれているほど、書き換えは不可能に近づきます。
コンセンサスルール · ノードは何を検証しているのか
これは館内でもっとも誤解されやすい点です。ルールを決めるのはマイナーではなく、ノードです。マイナーは、トランザクションをブロックにまとめて提案するだけです。そのブロックを、世界中のフルノードがそれぞれ独立に、一項目ずつ検証します。署名は有効か、二重支払いはないか、金額の収支は合っているか、報酬は許された発行量の範囲内か、ブロックはサイズの上限内か。ひとつでも満たさなければ、どれほどのハッシュパワーで提案されたブロックでも破棄されます。「Don't trust, verify(信頼するな、検証せよ)」はスローガンではありません。すべてのノードが10分ごとに実際に行っていることなのです。
- 署名の有効性
- 二重支払いがないこと
- 発行ルールの遵守
- 作業量の基準
署名の有効性
各インプットが、対応する秘密鍵によって正しく署名されているか。
二重支払いがないこと
使われるUTXOが、本当にまだ使われていないものか。
発行ルールの遵守
ブロック報酬が、現在の半減期サイクルで認められた額と一致しているか。
作業量の基準
ブロックのハッシュが、現在の難易度ターゲットを満たしているか。
マイナーは提案し、ノードが裁定する。「ハッシュパワーが大きい」ことが「最終決定権を持つ」ことを意味しないのは、このためです。2017年のブロックサイズ論争でも、結末はマイナーだけで決まったわけではなく、それぞれの陣営がどれほど寄与したのかはいまも議論が分かれています。詳しい経緯は「栄光と災厄」の展示「ブロックサイズ戦争」をご覧ください。
最長チェーンのルールとフォークの収束
2人のマイナーがほぼ同時にブロックを見つけると、ネットワーク上には一時的に2本のチェーンが存在します。これは故障ではなく、設計が想定している状態です。各ノードはひとまず先に受け取った方を受け入れ、マイニングを続けます。次のブロックがどちらに積まれるかで、その側が長くなり、もう一方は放棄されて、そのブロックは「オーファン(孤立ブロック)」になります。食い違いは、仲裁者なしに、ハッシュパワーによって自動的に収束します。これは承認数の意味も説明しています。トランザクションの上にブロックが積み重なるほど、それを覆すのに必要なハッシュパワーは途方もないものになるのです。
孤立ブロック · 取引はメモリプールへ戻る
チェーンは通常どおり伸びる
一時的なフォーク
ブロックが同時に見つかると、候補となるチェーンが2本生じます。ごく普通のことです。
オーファンブロック
敗れた側のチェーン上のブロックは破棄され、そのトランザクションはメモリプール(mempool)に戻ります。
なぜ6承認を待つのか
承認がひとつ増えるごとに、ハッシュパワーで劣る攻撃者が追いつく確率は指数関数的に下がります。待つことが、すなわち安全なのです。
台帳強奪計画・51%攻撃
台帳を書き換える力は「ノードをたくさん動かすこと」からではなく、ハッシュパワーから生まれます。スライダーを動かして攻撃者になってみましょう。そのハッシュパワーのシェアを得るのにいくらかかるのか、そしてホワイトペーパー第11節の式のもとで実際にどれほどの成功確率が得られるのかがわかります。
鍵はノードの数ではなくハッシュパワー
ノードの運用は安価で、ルールに従ってトランザクションを検証するだけです。台帳を実際に書き換えられるのは「最も多くのハッシュパワー/仕事量を持つ者」です。確実に攻撃するには全ハッシュパワーの過半(>50%)を支配する必要があります。それ未満でも成功の可能性はありますが、承認が1つ増えるごとに確率は急速に下がります。
全体のハッシュパワーは巨大、その分布は時とともに変わる
ネットワークのハッシュパワーは、世界中の数千のマイナーとマイニングプールから供給されています。半分を超えるには、ほかの参加者全員の合計を上回るASICを購入・稼働させる必要があり、ハードウェアと電力で数百億ドル規模の費用がかかります。ただし集中度は一定ではありません。マイニングプールのシェアの推移については、この展示室の「マイニングプールと集中化の問題」をご覧ください。
成功しても、奪えるものはわずか
できるのはせいぜい、自分の直近のトランザクションを二重支払いするか、一部のトランザクションを一時的に検閲することくらいです。何もないところからコインを生み出すことも、他人のコインを盗むことも、はるか昔の履歴を書き換えることもできません。
攻撃の経済学
ホワイトペーパー第6節は、たとえハッシュパワーの過半数を握っていても、システムを損なうよりルールどおりに新しいコインをマイニングしたほうが得だと論じています。システムが壊れれば、攻撃者自身が持つコインの価値も下がるからです。Budish 2018などの後続研究は、攻撃によってほかに使い道のないマイニング機器の価値も下がる点を補足しています。この議論が成り立つ条件については、下の「いまも議論が続く点」をご覧ください。
古い記録ほど書き換えにくい
過去のブロックを覆すには、その後に続くすべての仕事をやり直さなければなりません。仕事量は深さとともに積み上がり、少数派の攻撃者が成功する確率は指数関数的に小さくなります。さらに、コミュニティが異常を察知して対抗することもできます。
いまも議論が続く点
ここまでの5つの論点はこの設計を支持する主流の議論ですが、決着がついたわけではありません。(1)「過半数が必要」という点には異論があります。EyalとSirer(2013年)のセルフィッシュ・マイニングの研究は、一定の条件下では50%未満でも不釣り合いに大きな報酬を得られると論じています。(2) 攻撃者が自らマイニング施設を建設する必要はありません。ハッシュパワーのレンタル市場を使えば短期間借りることができ、実際にEthereum ClassicやBitcoin Goldではこの種の再編成(reorg)が起きています。(3) 論点4の経済性は、攻撃者がハードウェアを保有していることを前提にしています。攻撃者が同時にショートポジションを持っていれば、その計算は成り立ちません(Budish 2018)。当館はこれらの議論を展示するにとどめ、どれが正しいかの判断は示しません。
ハッシュパワー競争
1台のパソコンから発電所へマイニングマシンの壁
1台のデスクトップPCから発電所まで、マイニング機器の進化の歴史です。CPU→GPU→FPGA→ASIC。どの世代も、より高いハッシュレートと効率を備えた次の世代に主役の座を譲ってきました。
世代別機種目録 · 仕様と出典
各マシンには、仕様の出典と画像の出典を併記しています。

汎用x86 CPU · 例:Intel Core i7-920
この壁で唯一、そもそもマイニング機器ではない展示資料、ごく普通のデスクトップ用プロセッサーです。サトシ・ナカモトはCPUでジェネシスブロックを採掘しました。その意義は性能ではなく、参入障壁がまったくなかったことにあります。コンピューターさえあれば誰でも参加でき、ハッシュパワーが最も均等に分散していた時期でした。ビットコインの歴史上、特別な機器なしでマイニングできたのはこの時期だけであり、二度と戻ってくることはありませんでした。

AMD/ATI Radeon HD 5870
GPU時代の主力マイニングカードです。並列アーキテクチャによってSHA-256をCPUの数十倍の速さで計算し、CPUマイニングを一夜にして無意味なものにしました。この世代のマイナーはほぼAMD一択でした。VLIWアーキテクチャはBFI_INT/bitalign命令を備え、SHA-256に必要なビット回転を1命令でこなせたのに対し、NVIDIAでは3命令が必要でした。演算ユニットの数も多く、AMDのカードは全体で3〜5倍速く採掘できたのです。ここからマイニングは特定のハードウェアと結びつくようになります。ブランドを選び間違えれば勝負にならないのです。同年のデュアルGPUフラッグシップHD 5970は、約700 MH/sに達しました。

複数GPU搭載のマイニングマシン(オープンラック)
この世代で唯一、製品ではなく、マイナーが自ら工夫して生み出した形態の展示資料です。カード1枚では足りなくなると、複数のGPUをオープンフレームに固定し、PCIeライザーで1枚のマザーボードにつなぎ、大容量電源で給電し、工業用ファンで冷やすようになりました。マイニングは「1台のコンピューター」から「ずらりと並んだグラフィックカード」へと変わり、電気代、排熱、設置スペースが初めて中核的なコストになったのです。現代のマイニングファームのあらゆる原則が、すでにこの机の上に見て取れます。

Icarus
オープンソースのFPGAマイナーであり、ASICへと続く道の出発点。2011年、ngzhangがBitcointalkフォーラムでIcarusを公開しました。1枚の基板にSpartan-6 LX150を2基載せ、約380 MH/s・約19.2W。GPU時代のHD 5870(400 MH/s・約190W)とほぼ同じハッシュレートを、約10分の1の電力で実現しました。回路図とプロジェクトファイルはすべてGPLで公開され、誰でも同じものを作ることができました。FPGAが橋渡しだったのは速かったからではありません。SHA-256を回路に直接焼き込むことで効率が桁違いに跳ね上がることを証明したからです。ngzhangはその道を最後まで歩みました。彼が立ち上げたAvalonプロジェクトが、最初の商用ASICマイナーAvalon Batch 1を生み出したのです。

Butterfly Labs BitForce SHA256 Single
そのまま買えた最初期のビットコインマイナーのひとつ。Butterfly Labsは、マイニング機器を完成品として販売した最初期の企業のひとつです。マイニングはもう自作する必要がなくなり、ひとつの産業が生まれました。のちにBitmainやCanaanがたどったのもこの道です。832 MH/s・80Wで、ワットあたりのハッシュレートは同世代のIcarusの約半分でした。同じ世代の中でも効率の差がいかに大きかったかが分かります。⚠ 同社は2014年、予約販売した製品を出荷しなかったとしてFTCにより事業停止に追い込まれました。産業化のもうひとつの顔として、あわせて展示しています。

ZTEX 1.15y USB-FPGA
Spartan-6 LX150チップを4基搭載し、約860 MH/sと同世代で最高のハッシュレートを実現しました。特筆すべきは、ZTEXが自社のマイニングソフトウェアBTCMinerをオープンソース化したことです。2011年当時、ハードウェアメーカーが自社のマイニングファームウェアを公開するのは珍しいことでした。このオープンソースの流れは、途切れることなく今日のマイナー用ファームウェアのエコシステムにまで続いています。モジュール式のUSB設計により、マイナーはUSBハブとATX電源で低コストのクラスターを組むこともできました。一体型のBitForceとは対照的です。
Canaan Avalon Batch 1
ASIC時代の初日。SHA-256の計算というただひとつの仕事のためだけに作られたチップで、効率ではそれまでのどの世代も寄せつけませんでした。出荷されるやいなや、FPGAもグラフィックカードも一夜にして意味を失いました。66 GH/sはIcarus約170台分に相当します。そしてAvalonを立ち上げたのは、Icarusを公開したngzhang(張楠賡)その人でした。注目すべきは、この号砲を鳴らしたのがBitmainではなくCanaanだったことです。Avalonがいち早く量産・出荷にこぎつけましたが、数年のうちに主導権はBitmainへと移りました。初回出荷はわずか約300台で、今ではコレクター級の資料となっています。

ASICMiner Block Erupter USB
USBメモリほどの大きさのマイナーで、差し込めばすぐに採掘を始めます。「誰でも参加できる」最後の試みでした。ほぼ誰でも買える安さで、ラックも専用電源も要りません。ケースを外すと、その簡素さがよく分かります。指先ほどのチップ1枚とUSBコネクターだけで、残りのスペースはほとんど冷却に充てられています。しかし333 MH/sという性能は、同じ年に登場した数十GH/s級の大型機の前ではまったく通用しませんでした。ここに展示しているのは強力だったからではなく、個人マイニングの終わりを示す存在だからです。これ以降、マイニングは資本と電力のビジネスになりました。

Bitmain Antminer S1
Bitmainの最初のマシン。それ自体は目立つ存在ではありません。その重要性はひとえに、10年以上続く製品ラインの起点となったことにあります。S1からS3、S5、S7へと続き、史上最も広く導入されたマイナーのひとつであるS9、さらにS21、そして現在のS23へと至ります。2013年に参入した後発企業が、最終的に世界のハッシュパワー供給を支配することになりました。

Bitmain Antminer S9
伝記を書くマシンを一台だけ選ぶなら、これ。13.5 TH/s・1,323W。2016年の発売以来、何年にもわたってネットワークのハッシュレートの大半を担い、史上最も広く導入され、最も長く稼働したマイナーのひとつとなりました。電気代が十分に安い場所では、今もS9が動いています。現代のマイナーの形を決めたのもこの機種です。銀色の筒型の筐体、両端にファン、ネットワークケーブルと電源ケーブルが1本ずつ。それ以降の空冷マイナーのほとんどが、この型を踏襲しています。

Bitmain Antminer S19 / S19 Pro / S19 XP
産業用マイニングの標準装備。95〜140 TH/sの3モデルがさまざまな電気料金と減価償却の戦略に対応し、数千台単位でコンテナや倉庫に導入されました。この世代になると、マイナーは「台」ではなくメガワット単位で語られるようになります。機種選びの決め手は、ハッシュレートから、1テラハッシュあたりの消費電力と投資回収期間へと移っていました。

Bitmain Antminer S21
2023年のフラッグシップ。200 TH/sは2016年のS9の約15倍で、そのS9自体が2013年のAvalon Batch 1の約200倍でした。この3台を並べてみると、10年間で3,000倍という飛躍が見えてきます。そしてその10年間、難易度調整はブロック間隔を一貫して10分に保ち続けたのです。
MicroBT Whatsminer M60S
Bitmainがもはや唯一の存在ではないことの証拠。MicroBTは元Bitmainのチップエンジニアが創業した企業で、Whatsminerシリーズによって業界のもうひとつの極となり、効率でSシリーズと真っ向から競っています。ハードウェア供給者の多様性は分散化に直結します。もし世界中のマイナーがすべて一社の製品だったら、その企業がネットワークに対して持ちうる潜在的な影響力そのものが、システミックリスクになるからです。

Canaan Avalon A1566
円環を閉じる一台。2013年に世界初の商用ASICを作ったのはCanaanであり、10年以上たった今もこの競争の中にいます。2023〜24年世代のフラッグシップ3機種を並べて比べると、初期とはまったく異なる構図が浮かび上がります。S21は17.5、M60Sは18.5、A1566は18.5 J/TH。3社の差は小数点以下まで縮まっています。2013年には、AvalonとAntminer S1の間にまだ4〜5倍の差がありました。競争は数字を細かく詰め合う段階に入り、このビジネスの参入障壁は「チップを作れるか」から「1ジュールあたりどれだけ多く計算できるか」へと移ったのです。
マイニングファーム
17年のあいだに、マイニングの物理的な姿はデスクトップパソコンから、メガワット単位で測られる産業施設へと変わりました。その変化を促したのはハッシュパワーそのものではなく、ハッシュパワー1単位あたりのコストです。ブロック報酬はプロトコルで固定され、競争相手は次々と現れます。残された利幅は、1キロワット時をできるだけ多くのハッシュに変えることにしかありませんでした。このひとつの制約がハードウェアを、次に建物を、そして立地を作り替え、最終的にマイニングを電力ビジネスへと変えたのです。
家庭用ハードウェア
個人のパソコンで動かしており、消費電力は100ワット程度と、ふつうの家庭の電力使用と見分けがつきませんでした。この段階に「ファーム」はありません。ネットワーク全体のハッシュパワーが小さく、1台でもブロックを見つける現実的な見込みがあったため、集約する必要がなかったのです。
自作のマシンルーム
複数のGPUを積んだリグが登場すると、1台あたりの消費電力はキロワット級になり、家庭の配線と冷却が制約になりました。マイナーは改造できるガレージや倉庫へと移り、電気設備の増強や強制換気に初めて取り組むことになります。マシンルームの問題はここから始まりました。
電力価格が決める立地
ASICは効率を桁違いに高め、熱密度を設計段階から考慮しなければならない水準にまで押し上げました。ハードウェアは償却できる一度きりのコストですが、電気代は毎月かかり続けます。この段階から、立地は利便性の問題ではなく、長期的にどこで電力が最も安くなるかという問題になりました。
産業化と金融化
施設の規模はメガワット単位で測られるようになり、ホスティング契約や上場マイニング企業も登場しました。電力網と需給調整契約を結び、需給がひっ迫する時間帯に補償と引き換えに稼働を止める事業者もあります。これにより、マイニングは単なる電力の消費者から、調整可能な負荷へと変わりました。
電力価格:運用コストの大半を占めるため、損益分岐点そのものを左右します。冷却条件:外気温と冷却方式によって、排熱にどれだけ余分な電力を使うかが決まります。空冷は気候に左右されます。一方、水冷や液浸冷却は初期コストが高い代わりに熱密度の上限を引き上げ、排熱の回収も可能にします。規制の安定性:いったん設置した機器は短期間で簡単には移設できないため、予見可能性そのものがコストになります。2021年以降、多くの立地判断においてこの変数の比重は目に見えて大きくなりました。
中国がマイニングを全面的に排除したとき、ネットワーク全体の半分近く(2021年4月時点で約46%)を占めていたハッシュパワーが、数か月のうちに国外への移転を余儀なくされました。これは上の3つの変数に対する最も直接的なストレステストといえます。ハードウェアは動かせても、安い電力と安定した政策環境は動かせません。そのため移転は均等な分散にはならず、北米や中央アジアなどへの再集中となりました。ネットワーク自体は影響を受けず、難易度調整によってブロック間隔は自動的に10分へ戻りました。この出来事は「栄光と災厄」で展示しています。
マイニングが実際にどのようなエネルギーを消費しているのか、その環境コストをどう評価すべきかは、複数の立場がある開かれた問いです。マイニングは出力抑制された電力や行き場のない電力を吸収できるという主張も、1トランザクションあたりのエネルギーコストが過大だという主張もよく引用されますが、いずれも独自の方法論上の前提に立っており、それぞれに批判があります。当館はここで結論を出しません。3つの立場を、それぞれの一次資料とともに「文化と未来」の「エネルギー:PoWにその価値はあるか」で並べて展示しています。


ハッシュレートと難易度の歴史
CPU時代の毎秒数百万回から、現在の毎秒1,000エクサハッシュ近くまで。2009年以来、およそ14桁の伸びです。これは軍拡競争のデータで綴る歴史であり、この台帳がなぜますます書き換えにくくなっているのかに対する定量的な答えでもあります。ハッシュパワーこそが、台帳を守る堀なのです。
動き続けるコンセンサス
実際に起きた3つの出来事バリューオーバーフロー事件
2010年8月15日、ブロック74638。整数オーバーフローのバグ(プログラムが表現できる範囲を超えた数値が「一周して」誤った値になる現象)によって、何者かが約1,845億BTCを無から生み出しました。2,100万という上限をはるかに超える量です。本来なら致命的な一撃になるはずでした。ところが約5時間のうちに修正版がリリースされ、このオーバーフロー取引を拒否するソフトフォークのルールが導入されました。翌日(8月16日)、問題の取引を含まないチェーンがブロック74691で追い越して最長チェーンとなり、不正なチェーンは完全に放棄されました。この出来事から何より覚えておきたいのは、台帳はみずから誤りを正すこと、そして希少性はルールと人の両方によって守られているということです。
2013年の偶発的なフォーク
2013年3月、ブロック225430。ビットコインのソフトウェアの2つのバージョンが、同じブロックが有効かどうかについて異なる判断を下しました。これはブロックの同時発見による一時的なフォークではなく、ルールの適用のしかたが食い違ったもので、ネットワークは偶発的に2本のチェーンに分かれました。数時間のうちにマイナーたちは旧バージョンへのダウングレードを申し合わせ、過半のハッシュパワーを旧バージョンが認めるチェーンに戻して、ネットワークは再びひとつになりました。その後Gavin Andresenがまとめた事後報告書BIP 50は、分散型ネットワークが意見の相違をどう処理するのかを知るうえで重要な一次資料です。調整がどのように行われたかと同時に、このシステムがどれほど人に頼っていたかも記録しています。

マイニングプールと集中化の問題
単独のマイナーがブロックを見つけるのは宝くじに当たるようなもので、収入はきわめて不安定です。マイニングプールは数千のマイナーのハッシュパワーを束ね、貢献度に応じて報酬を分配します。「まれな大当たり」を、安定した少額の支払いに置き換える仕組みです。

しかしマイニングプールは、本展示室でもっとも鋭い問いを突きつけます。ハッシュパワーが過度に集中しても、「誰も支配していない」と言えるのでしょうか。2014年6月、マイニングプールGHash.ioのハッシュパワーが、約24時間にわたって一時的に全ネットワークの50%を超えました。攻撃は起きませんでした。実際に起きたのは、コミュニティからの公然とした圧力と、マイナーによる自発的な離脱です。その後GHash.ioは、7月にシェアの上限を39.99%に抑えると約束しました。この危機は、どこかの機関の裁定ではなく、参加者自身の自己修正によって収まったのです。同時にこれは、ハッシュパワーの分散化は自動的に保たれるものではなく、絶えず維持していく必要があることも示しています。
帳簿係のいない台帳
この一連の流れのなかで、誰かが判断を下したことは一度もありません。ルールと暗号とインセンティブが自動的に動いていただけです。帳簿係がいなくても、同じコインを二度使うことはできず、見知らぬ者どうしが書き換えられないひとつの台帳に合意できるのです。
基本データ
- 発行上限は2,100万BTC。コードで定められ、変更できない。
- 報酬は21万ブロックごと(約4年ごと)に半減する。
- 新しいブロックはおよそ10分ごとに生成される。
- 世界中の数万のノードが、ひとつの共有台帳を保持している。
- 台帳の書き換えには過半数のハッシュパワーが必要。いわゆる51%攻撃。
- マイニング機器の進化:CPU → GPU → FPGA → ASIC。